株価予測モデルの解説(対数正規分布を仮定した方法)

本記事では、将来の株価を予測する数理モデルについて解説する。

このモデルは、資産価格が対数正規分布に従うと仮定し、期待リターンとリスクと投資期間の情報を与えることで、将来の資産価格がいくら以上となる確率はどれくらいか、を具体的に計算することが可能である。

たとえばこのモデルを使うことで、期待リターン5%、リスク22%の株式を保有すると、30年後に元本以上になる確率は74%である、という予測ができるようになる。

本記事の内容は下記書籍の内容を参考にしているため、合わせて参照してほしい。

目次



対数正規分布の仮定

時点\( t\)における資産価格\( S_t\)が、以下のような確率微分方程式を満たすと仮定する。 \[ \begin{split} \frac{ dS_t}{ S_t}=\mu dt+\sigma dW_t \end{split} \] ここで、\( W_t\)はブラウン運動である。

左辺の\( \frac{ dS_t}{ S_t}\)は瞬間的な資産収益率を表しており、右辺は正規分布に従うことを示している。

したがって、このモデルは資産の瞬間的な収益率が正規分布に従うようなモデルである。

瞬間的な収益率が正規分布に従うとき、資産価格は対数正規分布に従う。

資産価格が対数正規分布するようなモデルは、ノーベル経済学賞を受賞した「ブラック・ショールズモデル」において仮定されているものと同じものである。


伊藤の公式と将来の資産価格

\(d(\ln S_t) \)に伊藤の公式を適用する。

伊藤の公式とは、ブラウン運動のような不確実な項が式に組み込まれている場合に、それを変数とした関数が、どのように振る舞うかを計算するための公式である。

実際に、以下のように計算する。
 \[ \begin{split} d(\ln S_t)&=\frac{ 1}{ S_t} dS_t-\frac{ 1}{ 2} \frac{ 1}{ S_t^2} \left( dS_t\right)^2\\ &=\mu dt+\sigma dW_t-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2dt\\ &=\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)dt+\sigma dW_t \end{split} \]
両辺を\( 0\)から\( t\)まで積分する。 \[ \begin{split} \ln S_t-\ln S_0&=\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)t+\sigma W_t\\ \Leftrightarrow \ln\left( \frac{ S_t}{ S_0}\right)&=\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)t+\sigma W_t\\ \Leftrightarrow \frac{ S_t}{ S_0}&=e^{\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)t+\sigma W_t}\\ \Leftrightarrow S_t&=S_0e^{\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)t+\sigma W_t} \end{split} \]
ここで、ブラウン運動\( W_t\)は平均\( 0\)、分散\( t\)の正規分布\( N\left( 0,t\right)\)に従う。
標準正規分布\( N\left( 0,1\right)\)に従う確率変数\( \epsilon\)を用いることで、 \[ \begin{split} W_t=\epsilon\sqrt{t}\end{split} \]
と書けるので、時点\( t\)における資産価格\( S_t\)は \[ \begin{split} S_t =S_0e^{\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)t+\sigma\epsilon\sqrt{t}}\end{split} \]
と表すことが出来る。


将来の資産価格の予測

将来時点\( T\)における資産価格\( S_T\)がある価格水準\( K\)を超える確率\( P\left( S_T>K\right)\)を考える。

前章の資産価格の式を用いて計算すると、 \[ \begin{split} P\left( S_T>K\right)&=P\left(S_0e^{\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T+\sigma\epsilon\sqrt{T}}>K\right)\\ &=P\left(e^{\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T+\sigma\epsilon\sqrt{T}}>\frac{ K}{ S_0}\right)\\ &=P\left(\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T+\sigma\epsilon\sqrt{T}>\ln\left( \frac{ K}{ S_0}\right)\right)\\ &=P\left(\sigma\epsilon\sqrt{T}>\ln\left( \frac{ K}{ S_0}\right)-\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T\right)\\ &=P\left(\epsilon>\frac{ \ln\left( \frac{ K}{ S_0}\right)-\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T}{ \sigma\sqrt{T}}\right)\\ &=1-P\left(\epsilon\leq\frac{ \ln\left( \frac{ K}{ S_0}\right)-\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T}{ \sigma\sqrt{T}}\right) \end{split} \]
となる。
\( \epsilon\)は標準正規分布に従う確率変数なので、標準正規分布の確率分布関数\( \Phi\left( \cdot\right)\)を用いると、 \[ \begin{split} P\left( S_T>K\right)&=1-\Phi\left(\frac{ \ln\left( \frac{ K}{ S_0}\right)-\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T}{ \sigma\sqrt{T}}\right) \end{split} \]
と表せる。

同様に、将来時点\( T\)における資産の(対数)収益率\( r_T=\ln\left( \frac{ S_T}{ S_0}\right)\)がある水準\( r_{target}\)を超える確率\( P\left( r_T>r_{target}\right)\)は、 \[ \begin{split} P\left( r_T>r_{target}\right)&=1-\Phi\left(\frac{ r_{target}-\left( \mu-\frac{ 1}{ 2} \sigma^2\right)T}{ \sigma\sqrt{T}}\right) \end{split} \]と表せる。

参考文献