譲渡予約権は企業の資本政策や経営者等のインセンティブ設計に活用することができると言われている。
しかし、その内容、特に新株予約権との違いについてあまり情報がなく、譲渡予約権の評価についても解説が少ないため、本記事で簡単に解説しよう。
ある企業の株主と譲渡予約の契約を結ぶことで、決められた期日に、決められた価格で株式を譲渡してもらうことができる。
簡単に言えば「株式を割安で購入する権利」である。
新株予約権との違い
株式の割安購入権と聞くと、新株予約権(ストック・オプション、以下SO)をイメージする方も多いだろう。SOと譲渡予約権は、株式を取得する権利である、という意味で同じものである。
ある特定の株式(原資産という)を取得する権利を、一般にコール・オプションという。
SOも譲渡予約権もある企業の株式を原資産とするコール・オプションであるという意味では、全く同じである。また、契約に際して、いつ(満期)・いくらで(権利行使価格)買うかという条件を決める必要があるのも共通している。
しかし(名前が違うからには)SOと譲渡予約権には明確な違いがある。
SOと譲渡予約権の一番の違いは、株式を引き渡す義務を負う主体にある。
SOは通常、権利行使に対して企業が株式を発行するなどして株式を引き渡す。つまりSOを発行する主体(SOの義務者)は株式の発行体である企業である。
一方、譲渡予約権は、株主が株式を引き渡す義務を負っている。したがって、SOとは異なり、企業が新株を発行する必要は必ずしもない。
譲渡予約権が株主との相対(あいたい)契約であるという点を強調して、以下のサイトでは譲渡予約権を「相対コール・オプション」と呼んでいる。
譲渡予約権の評価
SOも譲渡予約権も、株式を一定の条件で引き渡す義務であるという意味では同じである。したがって、評価にあたってはSOの評価手法を用いることができる。
SOにせよ譲渡予約権にせよ、その評価にはコール・オプションの価格算定モデルに依拠することになる。
多くのモデルでは、原資産を引き渡す義務を負う主体が企業か個人株主かという差異は価格に影響を及ぼさないため、譲渡予約権の評価にあたって特に検討を要する事項はないと思われる。
価格算定モデルとして具体的に考えらえるのは、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」に例示されたブラック・ショールズ式や二項モデル等である。
ただし、これらの評価手法はSOや譲渡予約権を念頭に置いて開発された価格算定モデルではない。
実務上はより複雑な条件(何年以上勤務していなければならないだとか、株式を発行する企業の利益がいくら以上でなければならないだとか)を付加したうえでの価格を算定する必要があることから、ブラック・ショールズ式などのシンプルな評価公式をそのまま用いることは少ない。
筆者の知る限りでは、SOや譲渡予約権の評価にあたって用いられるのは、複雑な条件を柔軟に織り込めるモンテカルロ法と呼ばれる手法である。
モンテカルロ法とは何か、なぜSOや譲渡予約権の評価に使われるのかという点については、こちらの記事が参考になる。
参考文献等
SOの評価実務に関する良質なテキストとして、以下を勧める。
リンク
実務上広く用いられるモンテカルロ法によるオプション評価の理論と実際の評価プログラムについては、以下のテキストを通読することでほとんどが理解可能である。
リンク
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譲渡予約権の概要については、記事内で上げたプルータス・コンサルティングのページのほか、以下も参考になる。
SOの評価については、このブログでも多くの評価プログラムの例を提供している。以下を参照してほしい。
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