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ブラック・ショールズ式の導出1(ブラック・ショールズ偏微分方程式を変数変換で解く)


本記事では、ブラック・ショールズ方程式を変数変換によって熱伝導方程式に帰着させ、熱伝導方程式の基本解を用いることで、ブラック・ショールズ式を導く。

本記事の内容は下記書籍の内容を参考にしているため、合わせて参照してほしい。

目次




ブラック・ショールズ方程式とブラック・ショールズ式

ブラック・ショールズ方程式とは、危険資産Sと安全資産B=ertが存在する市場において、これらの派生証券価格Cが満たす偏微分方程式である。

ブラック・ショールズ方程式の導出方法は以下の記事を参照してほしい。
ブラック・ショールズ方程式を導出する

ブラック・ショールズ方程式は
Ct+rSCS+12σ2S2CSSrC=0で表される二階偏微分方程式である。ただし、下付き文字は偏微分係数を表し、たとえば
Ct=CtCSS=2CS2である。

ブラック・ショールズ方程式はあらゆる派生証券が満たさねばならない偏微分方程式である。

ブラック・ショールズ方程式を、特定の派生証券が満たす式(これを境界条件という)を与えて解くことにより、当該派生証券の価格を表す公式が導出できる。

特に、派生証券として標準的なオプション契約を考え、そのペイオフを境界条件として与えたときの解、すなわちオプションの価格公式は、ブラック・ショールズ式と呼ばれ、以下の式で表される。C(t,S)=SN(d)Ker(Tt)N(d12σ(Tt))

本記事ではブラック・ショールズ方程式を解きやすい形に変形して、解がよく知られた偏微分方程式に帰着させることで解き、ブラック・ショールズ式を導出する。


線形二階偏微分方程式の類別

一般に、次の形の偏微分方程式を、線形二階偏微分方程式と呼ぶ。
Auxx+Buxt+Cutt+Dux+Eut+Fu+G=0ここで各係数はxおよびtの関数である。

線形二階偏微分方程式は二階微分の項の係数によって、次のように類別される。
  • B24AC>0のとき、双曲型
  • B24AC=0のとき、放物型
  • B24AC<0のとき、楕円形

ブラック・ショールズ方程式を見てみると、A=12σ2S2,B=C=0であるから、B24AC=0となり、放物型に分類される。

G=0の(すなわち同次な)放物型の線形二階偏微分方程式は、熱伝導方程式という有名な偏微分方程式に変換できることが知られており、熱伝導方程式は解を持つことも知られている。

熱伝導方程式とは、以下のような偏微分方程式である。ut=2ux2

放物型同次線形二階偏微分方程式であるブラック・ショールズ方程式は熱伝導方程式に変換出来るため、変換後にその解を求め、再度変数変換を施すことで、ブラック・ショールズ式を導くことが出来る。

以下ではその具体的な方法を見ていく。


ブラック・ショールズ方程式の変数変換

まず、ブラック・ショールズ方程式Ct+rSCS+12σ2S2CSSrC=0Sに関する微分の項の係数に、微分の階数と同じ次数のSの累乗が含まれていることに着目すると、
y=log(SK)と置くことで、

CS=CyyS=Cy1SSCS=Cy2CS2=S(CS)=S(Cy1S)=S(Cy)1S+CyS(1S)=yySCy1SCy1S2=2Cy21S2Cy1S2S22CS2=2Cy2Cyと変形できる。

したがって、このような変数変換により、ブラック・ショールズ方程式は次のように変形できる。Ct+rCy+12σ2(2Cy2Cy)rC=0Ct+(r12σ2)Cy+12σ22Cy2rC=0

次に、熱伝導方程式で現れないyの1次偏微分の項を消すことを考える。

tの一次微分の項とyの一次微分の項が上手く消し合ってくれるように変数変換してみよう。

x=y+(r12σ2)(Tt),τ=Ttと置くと、
Cy=Cxxy=Cx2Cy2=2Cx2Ct=Cxxt+Cττt=(r12σ2)CxCτとなるから、(r12σ2)CxCτ+(r12σ2)Cx+12σ22Cx2rC=0Cτ+12σ22Cx2rC=0と整理できる。

ずいぶんと熱伝導方程式に近づいてきたが、まだrCが余計である。

これを消すには、各項に積分因子erτを乗じて
erτCτrerτC+12σ2erτ2Cx2=0τ(erτC)+12σ22erτCx2=0と変形すれば良い。

あとはQ=erτCとおけば
Qτ=12σ22Qx2が得られる。

s=σ22τとおけば
Qτ=Qssτ=Qsσ22 であるから
Qs=2Qx2となり、熱伝導方程式に完全に一致する。


熱伝導方程式の基本解

熱伝導方程式の解は、初期条件Q(s=0,x=m)=f(m)のもとで
Q(s,x)=14πse(xm)24sf(m)dmと表せる(参考文献[1])。

Q=erτCであったので、
C(s,x)=erτ14πse(xm)24sf(m)dmである。

ブラック・ショールズ方程式の解としてCが求まった。

以下、この式を変形し簡略化することで、ブラック・ショールズ式を導く。

ブラック・ショールズ式の導出

ここでCに関する境界条件を整理しておこう。

C(t=T,S=S)=max(SK,0)であり、

t=Tのときs=0かつx=log(SK)S=Kexであるから、

C(s=0,x=m)=max(KemK,0)である。

KemK=K(em1)>K if m>0なので、
f(m)=Q(s=0,x=m)=C(s=0,x=m)={KemK (m>0)0 (otherwise)となる。

したがって積分はm>0の場合だけ考えればよくて
C(s,x)=erτ14πs0e(xm)24s(KemK)dmとなる。

q=mx2sと積分変数を変換すると、m=2sq+xかつdm=2sdqになり、積分区間はx2sからになるので、
C(s,x)=erτ12πx2seq22(Ke2sq+xK)dq=erτ+xK12πx2seq22+2sqdqKerτ12πx2seq22dqと変形できる。

以下、この式の第一項と第二項をそれぞれ簡略化していく。


ブラック・ショールズ式第一項

まず第一項は、指数の肩を
q22+2sq=12(q222s)=12(q2s)2+sと平方完成すれば
erτ+xK12πx2seq22+2sqdq =erτ+x+sK12πx2se12(q2s)2dqとなる。

積分変数をp=q2sと変換すると、dp=dqであり、積分区間はx2s2sからになるが、積分区間を逆にして符号を変えても同じことなので、結局
erτ+x+sK12πx2s+2sep22dpとなる。

これまでの変数変換を振り返ると
rτ+x+s=r(Tt)+log(SK)+(r12σ2)(Tt)+σ22(Tt)=log(SK)
x2s+2s=log(SK)+(r12σ2)(Tt)σ(Tt)+σ(Tt)=log(SK)+(r+12σ2)(Tt)σ(Tt)であるから、最終的に第一項は
erτ+x+sK12πx2s+2sep22dp =elog(SK)K12πlog(SK)+(r+12σ2)(Tt)σ(Tt)ep22dp=SN(d)となる。ただしN()は標準正規分布の累積分布関数で
N(d)=dep22dpかつ
d=log(SK)+(r+12σ2)(Tt)σ(Tt)である。


ブラック・ショールズ式第二項

次に、第二項に関しては比較的簡単に
Kerτ12πx2seq22dq =Ker(Tt)12πx2seq22dq =Ker(Tt)N(x2s)と簡略化できるが、
x2s=log(SK)+(r12σ2)(Tt)σ(Tt)=log(SK)+(r+12σ2)(Tt)σ(Tt)σ(Tt)=dσ(Tt)と表せるので、
Ker(Tt)N(x2s) =Ker(Tt)N(dσ(Tt))となる。

ブラック・ショールズ式

以上より、
C(t,S)=SN(d)Ker(Tt)N(d12σ(Tt))が得られる。

これがブラック・ショールズ式である。


更に進んだ話題

ブラック・ショールズ式はオプションの価格公式である。

オプションの価格はオプション契約を結ぶための費用であり、オプション・プレミアムとも言う。

以下の記事では、ブラック・ショールズ式を用いてオプション・プレミアムを計算する具体的な方法を、いくつかのプログラミング言語を使って説明している。




参考文献

熱伝導方程式の基本解は
[1]黒田 成俊, 関数解析, 共立出版, 1980
を参照した。

その他、全体的に以下を参考にした。
[2]BS方程式の解き方https://ameblo.jp/gogo-pd/entry-10421794663.html
[3]ブラック・ショールズ偏微分方程式の解法http://mathfin.web.fc2.com/deriv/imi_deriv24.html
[4]金融工学 ‐ オプション価格は熱方程式、ブラック・ショールズモデルhttp://hooktail.sub.jp/contributions/bsm160812.pdf

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