ブラック・ショールズ方程式を導出する

この記事では金融工学の金字塔「ブラック・ショールズ方程式」の導出について述べる。

ブラック・ショールズ方程式はデリバティブ価格が満たす方程式であり、金融工学の発展のきっかけとなった極めて重要な公式である。

なお、伊藤の公式と無裁定条件については既知であることを前提にしている。

伊藤の公式に関しては、以下の記事を参照して欲しい。
伊藤の公式を直感的に理解する

本記事の内容は下記書籍の内容を参考にしているため、合わせて参照してほしい。

目次


原資産とデリバティブの価格過程

リスク資産の価格が、次のような拡散過程に従うと仮定する。
\[ \begin{split}
dS=\mu(S,t) S dt+\sigma(S,t)Sdz_t
\end{split} \]ここで\( dz_t\)は標準ブラウン運動である。

ペイオフが原資産\( S\)と時点\( t\)に依存する条件付き請求権(デリバティブのこと、オプションなど。)の価格を\( C(S,t)\)と表せば、この条件付き請求権の価格変動
\[ \begin{split}
dC=\mu_C C dt+\sigma_C C dz_t
\end{split} \]のドリフトと拡散項は、伊藤の公式により
\[ \begin{split} \mu_C C&=C_t+\mu S C_S+\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_{SS}\\
\sigma_C C&=\sigma S C_S
\end{split} \]と表せる。

ヘッジ・ポートフォリオ

以下のポートフォリオを組む事を考える。

  • 条件付き請求権を1単位ショート
  • 原資産を\( C_S\)単位ロング

このポートフォリオをヘッジ・ポートフォリオと呼ぶ。

ヘッジ・ポートフォリオの価値を\( H\)と表せば、
\[ \begin{split}
H=-C+C_S S
\end{split} \]が成り立つ。

ヘッジ・ポートフォリオの価格変化\( dH\)は
\[ \begin{split}
dH&=-dC+C_S dS\\
&=-\left( \mu_C C dt+\sigma_C C dz_t\right)\\
&~~+C_S\left\{ \mu S dt+\sigma dz_t\right\}\\
\\
&=\left( -C_t-\mu S C_S-\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_{SS}+C_S \mu S\right)dt\\
&~~+\left( -\sigma S C_S+\sigma S C_S\right)dz_t\\
\\
&=\left( -C_t-\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_SS\right)dt
\end{split} \]となり、拡散項が消える。

したがって、ヘッジ・ポートフォリオは無リスクということがわかる。


ブラック・ショールズ方程式

ヘッジ・ポートフォリオが無リスクであることから、ヘッジ・ポートフォリオの瞬間的な収益率は、安全資産収益率(無リスク利子率)\( r H dt\)に等しくなければならない(無裁定の仮定)

したがって、
\[ \begin{split}
\left( -C_t-\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_{SS}\right)dt&=rHdt\\
&=r\left( -C+C_S S\right)dt\\
\Leftrightarrow C_t+rC_S S+\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_{SS}-rC&=0
\end{split} \]となる。

これがブラック・ショールズ方程式である。

ブラック・ショールズ方程式の導出において、条件付き請求権の具体的な内容については何ら仮定していなかった。

つまり、条件付き請求権が原資産と時間の関数であれば、いかなるデリバティブであっても、このブラック・ショールズ方程式を満たす。

参考文献

[1]Pennacchi, Theory of Asset Pricing, 2007

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