ブラック・ショールズモデル、ブラック・ショールズ方程式、ブラック・ショールズ式の違いについて


本記事では、ブラック・ショールズモデル、ブラック・ショールズ方程式、ブラック・ショールズ式の違いについて、極力数式を使わずに説明する。

それらはしばしば混同して用いられる用語であるが、この記事で述べるように、その定義には明確な違いがある。

以下の書籍の内容に本記事は多くを拠っているため、合わせて参照することをお勧めする。

目次


ブラック・ショールズモデル

ブラック・ショールズモデル(以下、BSモデル)とは、

フィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズの論文(参考文献[1])で展開された、資本市場を表すモデル(模型)のことをいう。

モデルとは、現実の事象を、分析に必要な部分だけ取り出し、数理的に表現したものである。

BSモデルでは、市場に取引コストや税はなく、空売りが可能であるといった、「理想的な」市場を想定する。

また、リスクのない債券とリスクのある株式が、連続的に取引可能であるような状況を想定する。

株式のリスクは、ブラウン運動と呼ばれる「ノイズ」で表現され、これを数理的に取り扱うには、確率解析と呼ばれる数学を駆使する。

BSモデルを考察する目的の一つは、価格の変動に連動してペイオフが決まる派生証券(デリバティブ)の価格を扱うことである。

BSモデルにおいて、債券\( B\)と株式\( S\)の価格変化は、次のような微分方程式・確率微分方程式で表される。
\[ \begin{split}
dB&=rBdt\\
dS&=\mu S dt+\sigma S dW_t
\end{split} \]


ブラック・ショールズ方程式

ブラック・ショールズ方程式(以下、BS方程式)とは、BSモデルにおいて、確率解析の公式(伊藤の公式)と無裁定条件という性質を用いることで、数理的に導かれる偏微分方程式のことである。

BS方程式は、BSモデルにおける任意のデリバティブ価格が満たす極めて重要な方程式である。

BS方程式を導出するためには、デリバティブを債券と株式の組み合わせ(ポートフォリオ)として表すことを考える。

デリバティブが債券と株式とのポートフォリオで「複製」できるとき、デリバティブの価格は当該ポートフォリオの価値として表現できる。

デリバティブ価格の変化は確率解析の強力なツールである伊藤の公式(伊藤の補題とも言う)を用いて表すことが出来る。

債券と株式と時々刻々適切に売買することで、このポートフォリオが無リスクであるかのように運用できるとき、このポートフォリオの収益率は、無リスクの債券の収益率と同じでなければならない。

この考え方を無裁定条件という。

伊藤の公式で求めたポートフォリオの収益率が無リスクリターンに等しいという関係式を整理すると、デリバティブ価格が満たす偏微分方程式が得られる。

これをBS方程式と呼ぶ。

BS方程式は、具体的には以下のような偏微分方程式をいう。
\[ \begin{split}
C_t+rC_S S+\frac{ 1}{2 }\sigma^2 S^2 C_{SS}-rC&=0
\end{split} \]

BS方程式はBSモデルで想定されるどのようなデリバティブの価格も満たす方程式であるから、この方程式に個別のデリバティブの条件式を与えて解くことで、デリバティブ価格を求めることが出来る。

なお、BS方程式は偏微分方程式であり、この方程式に確率的なノイズが含まれているわけではないので、確率微分方程式ではない。


ブラック・ショールズ式

ブラック・ショールズ式(以下、BS式)は、BS方程式にヨーロピアン・オプションの条件をつけたときの解を言う。

つまり、ヨーロピアン・オプションの価格を表す公式である。

BS方程式にヨーロピアン・オプションの価格が満たす条件式(境界条件)を与えて解くことで、任意の時点のオプション価格を求めることが出来る。

オプションの価格式はブラック・ショールズの論文以前も知られていたようだが、BS式とは異なり、投資家の選好に依存しているなどの欠点があった。

しかしBS式はこの問題を見事に解決しており、実用にも耐えるものであったため、脚光を浴びた。

BS式は以下のような数式で表される。
\[ \begin{split} C&=SN(d_1)-Ke^{-rT}N(d_2)\\
P&=Ke^{-rT}N(-d_2)-SN(-d_1) \end{split} \] ただし
\[ \begin{split} d_1&=\frac{log(S/K)+(r+\frac{1}{2}\sigma^2)T}{\sigma \sqrt{T}}\\ d_2&=\frac{log(S/K)+(r-\frac{1}{2}\sigma^2)T}{\sigma \sqrt{T}} \end{split} \]


まとめ

ブラック・ショールズモデルという市場モデルのなかで、

導出される偏微分方程式がブラック・ショールズ方程式であり、

これをオプションの条件で解いたものがブラック・ショールズ式であった。

いずれも、ブラック・ショールズ論文(参考文献[1])によって導入されたものであり、この論文を嚆矢として金融工学は発展したと言っても過言ではない。

ブラック・ショールズの貢献は現代のビジネスに無くてはならない物になっており、この功績を知るのは大変有意義なことである。

更に進んだ理解のために

BSモデルとBS方程式の導出については以下の記事が参考になる。

BS方程式からBS式を導出する過程については、以下の記事が参考になる。

BS式を使って実際にオプション価格の計算をする方法については、以下の記事が参考になる。

参考文献

[1]Black, Fischer; Scholes, Myron (1973), “The Pricing of Options and Corporate Liabilities”, Journal of Political Economy 81 (3): 637-654
[2]村上 秀記 (2015),『マルチンゲールアプローチ入門』, 近代科学社
[3]楠岡成雄, 長山いずみ(2015), 『数理ファイナンス』, 東京大学出版会