【マリアヴァン解析】マリアヴァン微分、スコロホッド積分、両者の随伴性(双対性)

本記事では、マリアヴァン解析における重要概念である「マリアヴァン微分」「スコロホッド積分」の定義を簡単に述べる。

また、両者の随伴性(双対性)に関する命題を紹介する。

本記事は下記書籍の内容を参考にしており、本記事で省いた証明の詳細も載っているため、合わせて参照してほしい。

目次



マリアヴァン解析とはなにか

マリアヴァン解析とは、Paul Malliavinによって創始された確率解析・関数解析の一分野である。

マリアヴァン解析はウィーナー過程(ブラウン運動)が作る空間における微積分学であり、ウィーナー過程の汎関数に対する微分作用素=マリアヴァン微分が基礎的な概念である。

マリアヴァン解析の概略、応用分野、参考文献等については、下記記事に詳しく述べられている。
【マリアヴァン解析】概要、応用、おすすめテキスト、そしてマリアヴァン解析に自信ニキ



設定

B=(Bt)t0B=(Bt)t0を確率空間(Ω,F,P)(Ω,F,P)上のブラウン運動とし、FFBBから生成されるσσ集合族とする。

H=L2(R+)H=L2(R+)とおき、任意のhHhHに対して、ウィーナー積分
B(h)=0h(t)dBtを考える。

Hはヒルベルト空間になっており、マリアヴァン微分を定義するのに重要な役割を果たす。

集合Sとして、以下のような形をした確率変数Fの集合を考える。
F=f(B(h1),,B(hn))ただしfRn上で無限回微分可能で、その偏微分係数とともにたかだか多項式増大であるものであり、またhiHである。


マリアヴァン微分(Malliavin derivative、微分作用素)

定義(マリアヴァン微分、微分作用素)
FSであるとき、Fの微分DF
DtF=ni=ifxi(B(h1),,B(hn))hi(t)で定義する。このときは、DFH値確率変数となる。

マリアヴァン微分作用素Dtは、微分作用素
dd(dBt)と考えるとイメージが湧きやすい。

実際、1次元の場合に形式な計算をしてみると、
dd(dBt)F=dd(dB(t))f(0h(t)dBt)=f(0h(t)dBt)dd(dBt)(0h(t)dBt)=f(0h(t)dBt)    ×dd(dBt)(h(0)dB0+h(Δt)dBΔt++h(t)dBt+)=f(B(h))h(t)となり、マリアヴァン微分の定義と一致する。

マリアヴァン微分の定義から、確率変数の積FGに対して、そのマリアヴァン微分は以下のように計算される。
Dt(FG)=FDtG+GDtF

また、Fがウィーナー汎関数(確率積分)を含まない関数であるときには、定義より
DtF=0となる。


スコロホッド積分(Skorohod integral、発散作用素)

次にスコロホッド積分(発散作用素)を導入しよう。

滑らかな確率過程u=(ut)t0
ut=nj=1Fjhj(t)   (FjS,hjH)であるようなものの集合をSHと表す。

定義(スコロホッド積分、発散作用素)
uSHに対して、uの発散δ(u)
δ(u)=nj=1FjB(hj)nj=1DFj,hjHと定義する。ただしDF,hHDFhの内積で、
DF,hH=0DtFh(t)dtである。

なぜ発散作用素が、スコロホッド「積分」と呼ばれているのかを説明しよう。

F=1のとき、
δ(u)=nj=1B(hj)=nj=10hi(t)dBtとなり、これはウィーナー「積分」の和となる。

したがって、発散作用素はウィーナー積分の一般化とみなすことができるため、スコロホッド「積分」と呼ばれているのである。


マリアヴァン微分とスコロホッド積分の随伴性(双対性)

発散作用素は微分作用素の随伴であり、次の命題が成り立つ。

命題(随伴性、双対性)
FSuSHに対して
E(Fδ(u))=E(DF,uH)が成り立つ。

証明
簡単に1次元の場合を考える。

uSHを一つとり
u=Ghと表す。このときスコロホッド積分の定義より
δ(u)=GB(h)DG,hHである。

次の補題を用意する。

補題
E(GDF,hH)=E(FDG,hH+FGB(h))
補題の証明は、E(DF,hH)=E(FB(h))を示し、FFGで置き換えれば得られる。この等式は部分積分の公式と、正規分布の密度関数pに関する(p/x=xp)という関係を用いて得られる。

この補題を用いると、
E(DF,uH)=E(DF,GhH)=E(GDF,hH)=E(FDG,hH+FGB(h))=E(F(GB(h)DG,hH))=E(Fδ(u))となり、マリアヴァン微分とスコロホッド積分が随伴(双対)の関係にあることがわかる。

本記事では随伴性(adjointness)と双対性(duality)を特に区別なく使っているが、一般に双対のほうが「対」を意味する広い概念であり、随伴(随伴作用素)はヒルベルト空間上で定義される内積に関する概念である。

参考文献[1]ではマリアヴァン微分とスコロホッド積分の随伴性を「duality relationship(双対関係)」と呼ぶ箇所がある(p.88)。



参考文献

[1]Nualart "Introduction to Malliavin Calculus" Amazon link
[2]Peter K. Friz "An Introduction to Malliavin Calculus"" link(pdf)


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